「日本のソフトウェア産業がいつまでもダメな理由」を読んだ
- 作者: 久手堅憲之
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2008/03/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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購入した経緯
以前、東北デベロッパーズの「居酒屋プレゼン大会」で紹介されていた本。入院で何を読むか迷い、本屋でウロウロしているときに思い出し、購入。
こちらの本から。過剰な仕様。「いつかは使うはず・・・」これを聞いたとき僕の頭をよぎった整理整頓のことば「いつか使うかもしれない。でもそのときは絶対に来ない」これと同じ。「お客様のシステムを作るのではなく、お客様の価値を作る。」いいね。
「居酒屋プレゼン2010」行ってきました。 - nigredoな日々 〜 arcanum.jpの出張所 〜
本の内容とか
組織についての駄目出し、その内部の個人についての駄目出し、IT業界自体の駄目出し、そして、ユーザー企業についての駄目出しを行い、その中から、タイトルである「日本のソフトウエア産業がいつまでもダメな理由」を探る。
第1章 組織としての駄目なところ
極論すると、社員の評価方法がまずいために、会社は1本のレールしか提示できない。そのレールから外れる「一番熱心な人」とかがババを引き、プロジェクトで失敗した人はそのレールからはずされる。技術を勉強しなさいと社員の興味、モチベーションに依存する割には、レールの本質が管理職になるという1本だけで技術にあった給与体系でを提示できず、勉強したり努力したりする意味は無いよと反対にメッセージを露呈する。最終的にはそんな会社なら辞めちゃったほうがいいんじゃない?って話。辞めた後に関しては、以下のような選択肢を提示。
- 同業他社に転職
- エンドユーザー企業に転職
- フリーランスで活動
- いっそのこと自分で会社を興してしまう
しかし結局のところは座談会のメンバーの一人が言う、以下のような結論に至る。(P58から引用)
「技術への純粋な評価とそれに見合った収入を求めるのなら、みなさん独立して個人事業主になって、会社とは委託契約などの形で向き合うことが1つの選択肢じゃないですかね。自分の能力・技術がいくらで売れるのか。歩合でもなんでも、リアルタイムで評価がもらえます。給与体系を自ら破壊できますからね」
第2章 エンジニア個人としての駄目なところ
会社にとって人こそが重要な財産であることは間違いないが、エンジニアから見て理想的なエンジニアは何か?と考えた場合、上流工程、プロジェクト管理、顧客対応が出来る人間と言うことになる。しかし、ビジネスの構造上、ピンで稼ぐ人員よりも面で稼げるような人員が必要で、こういった理想のエンジニアは必要ない。会社がどういった人員を必要としているかよく考えるべき。そうしないと徒労に終わる可能性すらある。
会社から貰えた肩書きや、金融や建設のように国内需要だけで食えてしまっていたことが原因で、エンジニア達にはプロ意識、自己研鑽意欲が無い。その結果、国際市場に自分を売り込む意欲はない。売り込むものが無い。海を越えてやってくるエンジニアが「安い」から自分の横の席にいるのではなくて、既存の日本人を淘汰してそこにいる。そこを考えていない。
サラリーマンだから評価は横並びという事はあるが、自分の好きなこと(技術)に目が行きがちになる。その結果、マネジメント等は会社が行うものと依存してしまい、顧客、ビジネスでの視点が欠如する。結局のところ1章のフリーランスと言う道に結論付く。
第3章 業界としての駄目なところ
結局は内製をせずに下請けなどに丸投げする形態、下請けは下請けでその人材を斡旋する形態のために、プロジェクトは寄せ集めチームが出来上がる。その寄せ集め達は各々のユーザー(エンドユーザーではない斡旋元)を向いた仕事をするため、発注元(エンドユーザー)に不安を覚えさせる、袖にする。
人月計算はあくまで売り手目線であり、「xxをしたい」と言うお客に対し、「それなら○○人」でやればよいというピントはずれなものである。他にましな根拠が無いという開き直りである。
日本人の英語アレルギーのため、例えばローカライズのプロセスでも原文資料が活用されないため、分からない部分は「仕様」と、ユーザーがババを引かされる。またそのババを引かされるユーザーも英語オンチ。そのアレルギーはオフショア時にも現れ、「日本語で対応してくれる」がきっかけとなりオフショア先も中国に固定されてきた。そして中国側のブリッジSEにいいカモにされてきた。英語オンチ向けの国内需要で儲かっていたこの業界はグローバル市場に発想が広がらなく海外トレンドとは無縁のものを作ろうとする、従って売れない。
そんな業界には生き残りにかけた3つの可能性として以下を提言する。(P128から引用)
- 顧客に密着してあいまいな要求をまとめながら開発するような、きめ細かいサービスを売りにする
- 顧客のビジネスとITの橋渡しをする上流開発のサービスを提供する
- きわめて専門性の高い開発や日本が優位性を持つ分野に特化する。
第4章 ユーザーとしての駄目なところ
ITをビジネスで使い業務を改善する(費用対効果)という視点が少ないために、IT化が「お金を使うことが目的」や「作ることが目的」となったりする。自然現状の業務がすべてIT化されることになり、複雑、巨大化する。そんなユーザーはベンダーの持ち込み企画を年度に申請するだけのような関係が出来上がり、すべてベンダー任せ、ベンダーのいいカモにされる。
そんなユーザーには逆説的な提言、反面教師を提案。(P179より引用)
- 会社にとってのITの意味なんて考えない
- 大手ベンダーに任せきりにする
- 仕事の改革なんて夢にも考えない
- 投資効果なんてヤボは言わない
感想
この本は4つの視点から見ているが想定読者としては当然ながら業界、会社が読むわけは無いので「エンジニア」「ユーザー」になるが、この彼らの問題に対する提言は、本では多方面に話が飛んで、僕は上でなかなかまとめ切れるもんじゃなかった感じだったけど、エンジニア個人としての帰結は
- 自己研鑽しなさい
- 好きなことばかりではなくビジネス視点を持ちなさい
- 社員としての会社との契約をよく考えなさい。(独り立ちすることも含め)
- 地理的な利点も含め、日本でしかできないことを考えなさい
に集約されるとおもう。一方、ユーザーとしては、
- メーカー任せにしないで、自分のビジネスなんだから自分で考えなさい
- ITを導入するということは、自分の業務フローの改善も含め、会社にとってのIT化の意味(費用対効果)を考えなさい
に落ち着くんではないかと思う。それは、エンジニア、ユーザーいずれにしても個人個人の問題であり、業界がどうのという問題ではないと感じた。業界を変えたきゃまず自分を変えなさいと。一人一人が変わっていければ良い方向に向かうんではないかと。
いずれ、オフショアに製造部分を奪われ、技術は国内に残らず、自然、上流志向、保守志向と言うスマイルカーブを意識しなくてはなならなくなるわけだけど、スマイルカーブの片側、保守なんてそれすらも日本にサーバーが無いとダメなわけではないから保守もどっかに持って行かれる。もう片側の上流にしたってユーザーがきっちりしてくればベンダーに大金を払って企画などをするものではないし、上流なんてのは本書によるとユーザーが毎年支払うIT予算のほんの一部だ。そう考えるとお先真っ暗な話なわけだけど、そうすると今自分がいる業界って、何が残っているのかなと感じた。斜陽どころかアブク産業??ゆっくり転げるのではなく一気にはじけ飛ぶ。
昔転職してこの業界に入ってきた実感として、なにかアイデアがあれば、その作る技術さえあえれば面白いことができる。その考えは今でも変わらないが、僕は、個人、組織に属しているに関係なく小さくても仕事(パイ)を作るって事が生き残る一つの方策ではないかなと常々感じている。土木事業のように、始めにお客様ありき、お客様がいないと始まらない、だからそのサービスを考える(提供する)ではなく、お客様を作るようなサービスを考えるという方向もアリではないかと。ちょっと本の趣向とは違うけどね。